| 「君は、やっぱりこういうの苦手?」眼鏡の奥の瞳がきっと開くのを僕は見逃さなかった。視線は僕の脳内を駆けめぐり、思考回路という回路をかき乱してゆく。どこまでが本当で、どこまでが遊びなのか、彼の視線からそれを読み取ることは僕にはもう不可能だった。そして、僕の思考回路は停止した。 |
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切符を手渡した時、俺は肩が強張っていることに気づいた。昨晩の世迷言が脳裏を一周する。贖罪なんて言葉で言い表したくは無いが、彼にできることは全てしたつもりだった。全て。俯いた彼の手首にぽつりと涙が零れる。「帰ってこいよ。来年」二人が立つホームに、モノクロームの列車の影が落ちていた。 Theme ... 「モノクロ列車」 |
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飛行機雲をなぞるように、白いカーテンがたなびく。ふわっと舞い上がった裾の先に君の影が映って、僕は視線を黒い脚とウレタン質で拵えた椅子に落とす。「良くなったかい?」僕の期待した言葉よりももっと一般的な言葉から君は始めた。「もう、肩は戻らないのな」雲に映った入道雲は大きくなっていた。
Theme ... 「曇っていく窓」 |
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あいつは無邪気だった。ふざけて男にキスを迫っても悪びれる様子は全くなかった。二十年の年月はこれほどまでに非道で、残酷なものなのか。スケッチブックに描かれたオレンジ色の横顔には、もう逢えないというのか…。「早く顔を上げろ」唸るのが精一杯だった俺に、前の男はもう一度、鞭を振り上げた。
Theme ... 「オレンジ色の記憶」 |
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繋いだ有輝の手は温かかった。もしや、ポッケにカイロでも隠し持っているんじゃないか。「実はカイロとか持ってない?」僕の問いに有輝は鼻で笑った。「モスに寄ったら何食べる?」「ほら行くぞ」信号が青になった途端、出遅れて歩き出した右足がバランスを崩してよろける。有輝の手は僕を支えていた。
Theme ... 「赤から青へ」 |
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優しい嘘なら、つかなくていい。先生は僕の弓に手をあてて静かに呟く。「君がもし、雨を知らないなら、それはとても勿体無いことなんだ。晴れの日の笑顔がずっと続いていたら、君は笑うことしかできなくなる。表現の豊かさは、晴ればかりの日からは得られないのさ。」先生は弓を僕の手に添えて頷いた。
Theme ... 「雨を知らない」 |